2022.11.26
立春に始まり、春分、夏至、秋分、冬至等を経て大寒で終わる「二十四節気(にじゅうしせっき)」。これらをさ らに三つの候、初候、次候、末候に分けたのが「七十二候(しちじゅうにこう)」。二十四節気の「気」と七十二候の「候」を合わせたものが「気候」の語源と言われています。
立冬 末候 金盞香(きんせんかさく)
11月17~22日頃がこの候。ここでいう「金盞」とは金盞花(キンセンカ)ではなく「水仙」のことです。金盞花にしても水仙にしても開花時期はずれていますが…。金盞とは金の盃(さかずき)のこと。つまり花の中心に黄色い(金の)盞(さかずき)をもつ水仙のこと。白い花弁は銀の台座です。それを「金盞銀台」といいます。資料によっては「金銭香」を「きんせんこうばし」と読んでいるものもあり、意味を寄せたのか、本当にそう読むこともあるのか定かではありません。
この時期の暖かい日を小春日和といいます。この言葉を聞くといつもさだまさしの「秋桜」が頭に流れます。「こんな〜こ〜は〜る〜び〜よ〜りの〜、お〜だ〜やかな日は〜」ですね。小春は冬の季語です。小春日和は英語で「インディアンサマー」といいます。というと浜田省吾の……なんてね。
「小暑 次候 蓮始開」(7月12日~16日)の中で、カレイが旬だと書きました。その中で冬になれば子持ちになって、と・・・いうわけで、今は子持ちカレイが旬です。もう、これは煮つけ一択で。煮付けという名から煮込むことをイメージしますが、煮込みすぎるとだいたい固くでパサパサな食感になり、味も抜けてしまいます。コツは最初に味のベース(酒、砂糖、味醂、醤油)をまとわせて、水を加え、落し蓋をして10分くらい煮るだけです。先に味のベースを作り(割り下のイメージ)、少し煮詰める、そこに魚を加えキャラメリゼするイメージです。あとは生姜が欲しいですね。スライスして煮汁に入れ香りをつけましょう。針生姜を最後に盛り付けるのもありです。
野菜は沢山ありますね。どれについて書きましょうか。「山芋」にしましょうか。山芋とはヤマノイモ科ヤマノイモ属の植物の総称なのですが、代表的なものはやはり「自然薯」。「大和いも」や「長いも」など似たようなものはいくつかあります。やまと芋は山芋だけど長いもは山芋ではない、みたいな話しもちらほらありますが、大和いもは長いもの一種である、というような話しもあり、結局どうなのよ、となりますよね。最初に書いたヤマノイモ科ヤマノイモ属が全て「山芋」と呼ばれるのなら、「自然薯」も「長いも」も全て「山芋」です。「やまと芋」は違います。やまと芋はヤマノイモ科ではありますがヤマノイモ属ではありません。で、関東地方で「やまと芋」といわれているものと奈良の「大和いも」は別物であり・・・。
まあ、細かいことはさておき、それぞれの特徴さえ分かればいいでしょう。と、個人的には思っております。簡単に言うと、「自然薯」は当然「とろろ」として食べるのが最高に美味しいですが、スーパーなどではそう簡単に手に入らないので、普段食べるなら「やまと芋」がおすすめ。要するにあの粘りですね。もう一度言いますね。「とろろ」なら「自然薯」か「やまと芋(あるいは大和いも)」です。長いもは水分が多くシャキシャキとした食感が特徴なのでサラダに向いていますが、焼いても揚げても美味しいです。輪切りにしてしっかりと焼いても、少し大き目に切ってレアに焼き、塩と胡椒でステーキ風なんてのもありです。
子供の頃、父親の実家(山梨県の山奥)へ行くと毎度、まず茶碗一杯のとろろが出てきました。「美味しいからたべな」って・・・、白いご飯も何もなく、目の前にただとろろが「ぽん」と。何の説明もなく、まるでお茶を出すように、当たり前のように。もちろん醤油もありません。今にして思えば、それは天然の自然薯で横浜の子供たちにとってはとても貴重で高価なもので滅多に食べられないだろう。そして、とても美味しくて身体に良い、というのは分かりますが、子供たちからしたらオレンジジュースの方が嬉しいし価値のあるものとしか思えませんでした。というか、いったい何が起こっているのか全く理解できませんでした。
自然薯、真っすぐな円筒形のものは基本的に贈答用として作られていてとても高価です。大人になって、食べることが好きになって、あの自然薯の価値がやっと分かりました。でもねぇ、大人の意図することを(その思いやりを)子供が必ずしも理解できるというわけではないのですよ、残念ながら。
とってもローカルな話で申し訳ないのだけど、僕の生活圏内(車や電車で片道2時間以内)では、秦野の震生湖(関東大震災の地殻変動、というか、陥没と土砂崩れで出来た湖)の近くに自然薯農家があり、そこは贈答用の形の良い自然薯を作っているのですが、形の悪いものや小さいもの(いわゆるアウトレット)を¥500~¥1,000くらいで売っており時々買いに行きます。それから山梨県の道志村(道志渓谷を流れる川は横浜市の水源でもあるので、道志村は、実は、横浜市と友好・交流の協定書や横浜市民ふるさと村であったりとその関係は深いが、道志村は2003年に横浜市に合併を申し込み距離的な問題から断られているのです)のとある直売所では成人男性のこぶし大の(形が不揃いの)自然薯がひと籠¥1,000で売っていて、冬になると必ず買いに行きます。
自然薯は水洗いをしたら、皮を剥かずに、その毛をコンロの火などで焼き切り、皮ごとすり下ろして食べましょう。その甘味と旨味といったらたまらないです。醤油をかけると醤油の味になってしまうので、それがもったいなく、何もかけないのがベスト。そう、あの父親の実家で出されていたのが正解なのです。答えにたどり着くまでに数十年かかりました。箸で持つと全部くっついて持ち上がるあの粘り、まるでトルコアイスのようですが、それこそ自然薯の証拠です。